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解析拠点・生産領域 澤崎達也先生にインタビューしました

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2015年6月25日取材

先生のご経歴を教えていただけますか?

 僕は大阪で生まれて、最初大阪の市内に小学校5年生までおり、6年生から大阪府茨木市郊外に引っ越して、そこでずっとサッカーをしていていました。高校は家から一番近い茨木東高校という創立6年の若い高校に通いました。できたばっかりだったので自由な校風でした。僕はもともと教師を目指していたんです。当時、中学校と高校の時にいい先生方に出会えたので、将来は理科の先生がいいなあと考えていました。その頃、よくしてもらっていた高校の担任の先生から、「教師の世界もいまはすごく厳しくなってきているから、お前がなるころには考えているような教師は無理かもしれん。もう少し視野を広げた方がいい。」と言われて、それで教員養成のメッカといえる広島大の理学部に入学しました。当時は、遺伝子がわかる、とか転写の様子が見えてくる、とかいったライフサイエンスの新しい扉が開いた時期で、「こういうの面白いな」って思っているうちに、研究者もいいかもしれない、と思い始めていました。
 実は、僕は大学4年の時に結婚したんです。義理の父は、かつて金沢大学の医学部の助教をしていた時代がありましたが、家族を養うために実家に戻って開業していました。でも、研究したかった気持ちがあったみたいで、本当に幸いにも、研究者を目指すのが自分の娘の旦那になるのも悪くないなと思っていただいたようでした。それで、研究者にならざるを得なくなったというのもありました(笑)。

その頃から分子生物学を目指されていたのですか?

 そうですね。僕は、当時植物の研究をやっていたんですけど、植物の分野で分子生物学を徹底的に使ってやっていきたいなあと考えていました。当時ゲノムがすごく好きで、外から入れたDNAがどのようにゲノムに組み込まれるかをやっていたんです。でも僕が博士号を取る頃にゲノム配列が決まり始めて、僕は遺伝子がどこに入っているかを調べるだけで何年もかかったのに、卒業する頃になったらそういうことは、もうシーケンサですぐマッピングできるという話になっていました。ちょうどその頃、愛媛大学遠藤弥太先生(当時)がコムギ胚芽を使った研究を始めていて、遺伝子と植物をキーワードとして助手を探しておられました。その時、遠藤先生の知り合いの先生が、「広島にちょっと変わった奴がおる」と遠藤先生に紹介してくれたんです。

小麦胚芽の無細胞系ができる前だったのですね。

 まだ本当にどうしようかっていう時期でした。未来開拓の予算のもと、なかなか計画通りに合成能が上がらなくて、どこをどう工夫しようかっていうときだったんです。その時、遺伝子と植物がわかる人が欲しいということでした。幸いそこに僕が面接に行ったら、すごい気に入られたんです。移ってすぐに一緒に無細胞系に取り組んで、1年半くらいたった時に、翻訳阻害をする因子は胚乳の方にあるっていうことがわかってきて、そのことが2000年に論文になりました。当時、真核生物にはmRNAの5'端にはキャップ構造があって、3'端にはポリAがあるっていうのは当たり前だったので、それを僕らも毎回作っていたんです。でも値段がすごく高いんです。1つのタンパク質発現用にmRNAを作るだけで100万円くらいかかってしまって、それじゃ技術として全然普及するわけがない。キャップを使わなくもよい配列を探さないとこれ以上進まないと思いました。それで僕は、学生と一緒に縦断爆撃ではないですけど、手元に持っていたありとあらゆる配列を付けて翻訳活性を調べる実験をしましたね。当時、キャップがなくても転写されるIRES(internal ribosome entry site)っていうのが知られていたので、それも試したけれど小麦の系では全然うまくいかなくて。そんな時に、たまたま試した中にオメガ配列をもつタバコモザイクウイルスが入っていたんです。ある時、学生と一緒に実験室に行って、「あれあれ?あんまり変わらなくない?」という感じでした。キャップの有無で、あまり値が変わらない配列がついに見つかったんです。それでわかったことは、IRESはすぐに高次構造を取るんですけど、コムギの系では何も構造をとらない。この高次構造を取らないということが大事だったんです。ところが、オメガ配列をついに見つけたんですけど、すでにイギリスのペーパーカンパニーみたいな会社でパテントがとられていて、そこから「我々のパテントを侵害しているから、ライセンスアウトするには手付金2000万円払え」と言ってきたんです。それは当然払いました。でも、これを毎年要求されたらちょっとしんどいということになって、オメガみたいな配列をランダム配列のプールから探しました。最終的は、ちゃんと機能して高次構造を取らない50ヌクレオチドほどの配列をみつけました。その配列に、後で新しくいい名前を付けようと思って、僕が暫定的にE01と命名したんですけど、結局その名前がそのままついてしまって(笑)。今はオメガ配列のパテントが切れたんでE01とどっちを使ってもいいんですけど。今ではもう、真核生物の無細胞を利用している先生方はみんな、「E01を使うと活性がいい」と言ってくれます。
 もう一つこの配列を見つけてもっとよかったのは、タンパク質が俄然できやすくなったことです。mRNAのキャップ構造は開始因子と結合するので、翻訳阻害活性も持つんです。なのでキャップ構造を除去しないと開始因子が枯渇しちゃう。幸いオメガ配列などは何の影響もないので、ものすごくいい加減な濃度で添加するだけでタンパク質ができます。それまでは至適濃度がとても狭くて、モル数がとても大事で、いちいち濃度を調べていました。でも、もうモル数を調べなくても、何も計らずにポンといれるだけでよくなりました。これは副産物。完全に想定外でした。運がよかったと思いますね。
 振り返って考えると、もう一つよかったことがあって、それは研究場所が東京から離れていたこと。あんまり情報が来ないんですね。好き勝手にできるっていうか、そういうので独自路線を歩み易かったという環境は地方大学にはありますね。

割と早い時期からロボット化をなさいましたよね。

 それには二つ理由がありましてね。一つはアメリカのいくつかのグループに技術提携に行っていたんですけど、アメリカではうまくいかなかったんです。作業が細かいからですかね。生化学の素養がしっかりないとワークしないんですね。それがわかって、これは機械を作らんと使える人が少ない、ということに気がつきました。もう一つは、ポストゲノムの時代に入って遺伝子がどんどん見つかっていたので、たぶん将来的にはタンパク質の種類が100とか200とか必要な時代が来ると思いました。そうなると、機械でつくれるようにしておかないと、と。でも、科研費だと装置開発は簡単ではない。研究費は出るんですけど、ロボット試作になると難しいですよね。予算額も問題ですし。当時バイオベンチャーを作ろうという雰囲気もあったので、それに乗って会社を作ったんです。その後、NEDOの支援も受けることができて、研究費とは別枠で開発経費をもらえるようになり、そういうのを活用しながらやってきたんです。

そのように技術が確立すると次は研究になるわけですね。

 そうです。当時、横山茂之先生とか上田卓也先生とかの大腸菌のいい無細胞系はたくさんあった。もう一つ、当時構造解析が波に乗ってきていた頃でしたが、僕らはそれはできなかったのでやめようということになった。自身が構造を解けるわけではないので、僕らがイニシアティブを取れるわけではない。やっぱり僕らは我々の路線を作らないと将来花開かないので、というのでね。でも、タンパク質をたくさん作る技術は持っていたので、そういうのを使って網羅的な全体像を眺めるシステムバイオロジー的なことをタンパク質のレベルでやるような研究を目指そう、と動きました。

始められたのは、早かったと思うのですが。

 それはもう早い段階でした。当時の国の方針とか、ポストゲノムで何をなすべきか、とかいろいろな話がある中、我々はすごい数の遺伝子を集めていたので、数百くらいのタンパク質なら普通に作れるという状況を実現していました。もう一つのブレークスルーは、本来はタンパク質を精製して生化学の解析をするというのが王道なんですけど、それだと100個のタンパク質を作って精製するだけでもすごく大変で、その上に、どんどん比活性が落ちていくような保存が効かないタンパク質も結構あることにも気付いたんです。これでは、精製過程を入れていると、とてもじゃないがタンパク質全部を回収できない。それならば、未精製のまま解析する系を作ろう。これがもう一つのブレークスルーでした。合成液を1?lとか0.5?l入れるだけで正確に測ることができます。数百とか数千個のタンパク質でも解析ができるのは、この技術のおかげだと思う。

後から考えれば当然のことのようですが、当時とすればずいぶん先へ進んだ発想ですね。

 僕はもともとゲノムの世界にいて、ゲノムに載っている遺伝子をいかにすればわかるかということを考えていました。1個の遺伝子で深く探っていく先生は尊敬するんですけど、僕はそういうタイプではないんですよね。飽き性なところがあって。僕はどっちかというと、分子生物学的な話よりも社会学的発想をもっていて、たとえば、個々の人間をいくら深く調べても人間社会はわからない、と思っているんです。僕は、もともと教師を目指していたこともあって、全体を社会学的にとらえることが好きなんです。だから細胞内のタンパク質の世界を理解しようということがベースにあるんです。一個一個を見るのでは本来生物がもっている多様性とか、ダイナミックな制御というのは見えないのではないかと思っています。それで僕は、in vivoとin vitroの間みたいなことをやりたい。それぞれは、独立して研究されていてもそこを繋ぐものがない。in vivoとin vitroの間をうまく繋げるような研究をするには、無細胞系は結構いいかなあって思っています。再構成っていうのが無細胞系の真骨頂なんです。つまりin vitroで起こったことをin vivoに近づけるために何が足りないんだろうというのが基本的な発想ですから。細胞の遺伝子からタンパク質を合成して、それを混ぜて再構成するという感じです。

コムギ胚芽はもともと植物ですが、無細胞系として現在はいろいろな生物種由来のタンパク質に使われていますね。

 ラッキーだったんだと思いますが、植物の抽出液のおかげでヒトのタンパク質を合成する時に、あんまり合成の邪魔をしないんです。合成の邪魔というのは実は大問題なのです。うちに植物のタンパク質を扱っているグループがあるのですが、植物のタンパク質を合成すると、ユビキチン化されたり、リン酸化されたり、結構いい加減に修飾されてしまうんで大変です。でも、ヒトのタンパク質ではそうはならない。だからそういう意味では、植物でヒトのタンパク質を扱うっていうのはメリットがあります。

話を今の創薬等のプロジェクトの方に戻しますと、小麦胚芽の無細胞系は創薬というプロジェクトにも向いていたということですね。

 小麦胚芽の系で創薬に向いていることが3つあると思っています。1つは、創薬ターゲットとしてよく現れる膜タンパク質を合成できるということ。合成した膜タンパク質を抗原とする抗体を作ってみたいですねえ。無細胞系では、リポソームという脂質を入れるだけで膜タンパク質が膜に挿入された形で合成され、ある程度活性もあります。しかも、リポソームにビオチン化した脂質を練り込むと、膜の上でどういう反応が起こっているかが検出できるっていう方法があります。創薬の対象となるものに膜タンパク質が多いので、膜タンパク質をそのままダイレクトに解析できるっていうのは創薬に向いているなって思います。
 2つ目は、クルードなままアッセイできること。薬のヒット化合物を探したりする時、たとえば東大の創薬機構から化合物を貰ってアッセイするっていうのはべらぼうに早いですよ。3時間で終わるんです。384穴のプレートに化合物を分注して貰って、それでたった3時間でいわゆる分子標的薬が見つかるんです。そこは本当に創薬に向いていると思います。インシリコよりも速い。
 そして最後の一つは、このプロジェクトですでにヒトの2万種類のタンパク質を全部作れるようになって、さらに解析出来るようにしたこと。今までは化合物ライブラリを利用して、細胞での反応の抑制を見ることはできても、その標的まではわからなかった。無細胞系ならば、分子標的薬の決定はすぐできますけど、細胞毒性がわからないです。それぞれに弱点があります。でも、論理的にはヒトの全タンパク質に相当する2万個のタンパク質を持ってくれば、化合物との相互作用を一挙に見られるはずなんです。そうなると、想定外のいわゆるオフターゲットと呼ばれるようなタンパク質との相互作用も見られるんです。そうすると副作用も予見できるかもしれない。ベストな創薬の話っていうのは、多分、細胞レベルのフェノタイピングで化合物ライブラリからとってきて、標的を僕らの系で見つけていくと、スクリーニングを徹底的にできるということ。インフォマティクスの先生方とよく話し合うんですけど、「我々は2万個のデータをインシリコに返すから、そこで予測の精度を上げる方向に行ってくれへんか」と。精度を上げた結果をもう一度こちらに返してもらえば、早い段階で化合物のフォーカスド・ライブラリっていうのを作ることができるんです。今まさにキナーゼがそうです。最初の段階で化合物ライブラリの規模を小さくできて、すごく繊細な実験を最初からできるので、全体の開発時間が短くなります。そういうのをすれば、我々からタンパク質レベルのビックデータを出せると思っているので、それをコンピューターサイエンスの人たちと何度も行ったり来たりしながらやっていくと精度は上がっていく。小麦胚芽の無細胞系は以上のことができるわけです。

そこに、できることなら構造情報が付くといいですね。

 そうですね。そうするとバッチリなんですよ。だけど、ひとつの膜タンパク質をとっても、構造が解けるまで1年でもちょっと難しい世界なので。でも、もっともっと構造情報が集まってくると、モデリングの精度も上がるので、モデリングによってターゲットを絞っていけば、うちの系でアッセイして出しますっていうのができるんですけどね。

そのように絞っていくことで、構造解析をしたほうがいいというものも絞られてくる可能性がありますね。

 解析をしていると、ここは構造情報がとても大事だっていうことも見えるんです。化合物の形がいろいろあって、反応も見えると全体のダイナミクスも見えてくるので、今は構造ってかっちりした静止画像ですけれども、動画として見え始めてくると思う。それがわかるプローブとしても、我々がいろいろな反応性をもった化合物を持っているっていうのも意味があると思います。我々は生化学的なデータはすぐに返せるので、それを返していければ、それで動的なイメージができ始める。化合物が将来薬として出回るのがベストではありますけれど、時間軸でいうとそこまで待っていられない。10年先のことで学生を1年2年の間に育てるのは難しいので。でもそういうケミカルプローブとして化合物が手に入ってきて、それを使って一方ではベイシックサイエンスができて、他方では外でより良いように育ててもらって薬として役立つ、ということはできると思うんですよ。

今後どのようなことに的を絞っていかれるのでしょうか?

 分子構造がドラッグデザインにある程度役に立つことがわかってきたけど、でも特異性を上げていけばいくほど薬としては効かなくなることが多いみたいで、我々が使っている薬っていうのは、たぶん作用が一対一の関係ではないんでしょうねえ。メインストリームはこちらだけれど、こっちにもちょろっと効いているのもあって、それが結構大切っていうことがきっと起こっているのだと思います。我々は、そういう弱いアソシエーションまで検出できるようになっていかないといけないんです。もちろん我々だけではだめで、我々も網羅的な見解を示すし、コンピュータサイエンティストもそれをやっていくし、構造解析の方々も弱い相互作用の時にどこについているのかの情報を提供する。今はメインターゲットのコントロールのことしか言っていないんだけれど、将来的にはオフターゲットまでコントロールできるようなドラッグデザインができるようになると思っています。日本は無細胞系とか、いろんなお家芸の技術をもっていますし。
 それに、生活のクオリティを維持していくためにも、薬ってとても大事だと思うんです。お医者さんの話だと、これまでは10人中6人から7人を外科医に渡すしかなかったけれども、今はもう3人とかになっていますと。それはちゃんとした薬があるから。薬のクオリティを上げていくと、病気になる前に早い段階で処理して病気までの発症を遅くするということができるようになる。

先生のお話をお伺いしていると、研究のお話なのですが、社会性というのですか、かつて教師を目指していたことがよくわかるようなお話で、社会貢献を忘れられていないように思えますね。

 国の大きな予算を使っているわけですから、何らかの形で社会に還元するということを、たぶんどの先生も考えておられると思います。僕らは、その意味では薬に近い立場にいるのでわかりやすいだけで。薬のことを考えると、タンパク質が大事なことが良くわかります。

先生は、特定のタンパク質ではない「タンパク質」という言葉をよくお使いになりますね。

 全タンパク質が僕の守備範囲ですから(笑)。でも、次に僕らがやらなければいけないのは、複合体をどういうふうに整理するかです。膜タンパク質との複合体はとても大事なんだけれど、とにかく可溶性タンパク質でも単独で機能しているタンパク質って少ないんで、複合体を形成したときにどれくらい酵素反応が違うのかということなんかも大事なんです。我々が現在持っている2万個のタンパク質の中でのコンビネーションをとりあえずやっていく必要があります。そうなると出てくるデータの数は膨大な数字になる。だからこそインフォマティクスの人たちと早めに組んで、このタンパク質はこの複合体も一緒に解析しなければいけない。ドラッグデザインを考えるときにはその数は無数になるんです。それをある程度まで化合物を絞り込んで、タンパク質も絞り込んで、それでもたぶん何千になるかもしれないですけど。複合体のペアもすごく大事だと思っているので。それはたぶんこのプロジェクトの先に必ず待っていると思います。

ドライとウエットは、ゲノムでもそうですけれど、融合してきていますね。

 コンピューターを開発した奴はすごいと思いますよ。それをうまく使える人が増えるといいですね。バイオの素養をもったバイオインフォマティクスをやる人が増えていかないと。その点アメリカはすごい裾野があるので。

日本でも裾野を広げていく必要がありますね。このたびは貴重なお話をお伺いできました。お忙し所時間を割いていただきましてありがとうございました。

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