A1-3 タンパク質重水素化等のラベリング試料の提供

ユニット名

構造解析ユニット

支援担当者

所属 ① 京都大学 複合原子力科学研究所 量子ビーム生体高分子統合研究センター
② 京都大学 複合原子力科学研究所 量子ビーム生体高分子統合研究センター
③ 京都大学 複合原子力科学研究所 量子ビーム生体高分子統合研究センター
氏名 ① 杉山 正明
② 裏出 令子
③ 奥田 綾
AMED
事業
課題名 生命科学と創薬研究に向けた相関構造解析プラットフォームによる支援と高度化
代表機関 理化学研究所
代表者 山本 雅貴

支援技術のキーワード

重水素化率制御タンパク質(大量)調製、タンパク質ライゲーション、ドメイン選択ラベリング

支援技術の概要

  1. 制御重水素化タンパク質の大量調製:大腸菌発現系を用いて、中性子散乱やNMRに適した重水素化率のタンパク質の大量調製が可能である。さらに技術支援も可能である。
  2. ライゲーションタンパク質の調製:タンパク質ライゲーション技術により、個別に調製したタンパク質を繋ぎ合わせる。任意の重水素化率のドメインやその他同位体ラベルされたドメインをライゲーションすることで、部分的に重水素化もしくは同位体ラベルされたマルチドメインタンパク質が調製可能である。
  3. タンパク質試料の品質チェック:調製した試料はX線小角散乱 (SAXS)、超遠心分析 (AUC)、質量分析 (MS)、動的光散乱 (DLS)といった複数の測定手法により、中性子散乱やその他の測定に適した試料であるか、構造・単分散性・重水素化率・粒子サイズの観点から品質チェックを実施する。加えて、通常の試料に対するこれら品質チェック技術支援も可能である。

支援技術の利用例

  1. タンパク質のライゲーション:主として酵素を用いて、マルチドメインタンパク質のライゲーションを行う。また、自動分注システムの活用により反応条件の検討・最適化を行うことで、大量のライゲーション試料を調製する。
  2. キャピラリー電気泳動によるライゲーション効率の定量評価:複数の反応条件のライゲーション産物について、キャピラリー電気泳動を行うことでライゲーション効率を定量的に評価する。この情報をフィードバックすることにより反応条件の最適化を行う。
  3. 質量分析 (MALDI-TOF MS) による重水素化率の測定:重水素化タンパク質と軽水素化タンパク質の質量差から重水素化率を算出する。これにより高精度に重水素化率を確定した試料提供が可能となる。

支援担当者の研究概要

  1. 解離会合系における目的タンパク質の構造測定:解離会合系において、溶液中での会合時のタンパク質の構造、特に目的としているタンパク質の構造変化を明らかにしたい場合がある。PbaB(MW: 126970 (tetramer))とα-Synuclein(MW: 14460)系におけるα-Synucleinの会合時の構造変化の研究例を示す。ほぼ全てのα-SynucleinをPbaBに会合させるために、系にはモル比で4倍量のPbaBを添加する。この時、α-Synucleinは重水素化せず、PbaBのみを75%重水素化し、100%重水溶媒を用いて中性子小角散乱測定を行う。大量のPbaBの散乱は現れず(PbaBは「不可視化」される)、PbaBに結合したα-Synucleinの散乱のみを選択的に観測できる(左図)。非結合時との散乱データを併用することで、α-Synucleinのサイズ比較をまとめたのが右図である(Guinier plot)。この結果より、PbaBに捕獲されたα-Synucleinは構造がコンパクトになっていることが分かる。更に詳細な構造解析が計算機を用いて可能となる。(M. Sugiyama, et al., J. Appl .Cryst. 47 (2014) 430.)

  2. 生体内はタンパク質をはじめとした様々な生体高分子がまさにひしめき合って存在している、所謂“混雑環境”である。そのため、実際に生体で機能するタンパク質の真の構造を明らかにするためには、希薄環境では無く混雑環境を模倣した環境下での構造解析を行う必要がある。しかしながら、単純にタンパク質を高濃度化すると粒子間干渉の影響によりタンパク質の構造を正しく評価することが極めて困難となる。そのような状況を打開するため、我々は最初の段階として散乱的にほぼ不可視化高濃度タンパク質溶液の調製を試みた。75%程度重水素化したタンパク質は100%重水溶媒中で中性子小角散乱測定において、散乱的に不可視化出来ることが知られている。そこで、我々は75%重水素化したα-クリスタリン(75d-αB)を調製した。なお、質量分析からも重水素化率が75%であることが確認できたので、この75d-αBを28.5 mg/mLまで濃縮し中性子小角散乱測定を行った。非常に興味深いことに、100%重水溶媒中では28.5 mg/mL 75d-αBは 0.45 mg/mLの軽水素化αB (h-αB)よりも4倍程度散乱強度が低いことを確認された。更なる75%重水素化タンパク質を高濃度化することにより、細胞中を模倣した混雑環境下における注目するタンパク質の構造解析が可能となる。(R. Inoue, et al., Sci. Rep., 11 (2021) 2555.)
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