A1-6 SPring-8化合物スクリーニング支援

ユニット名

構造解析ユニット

支援担当者

所属 ① 高輝度光科学研究センター
② 理化学研究所 放射光科学研究センター
③ 高輝度光科学研究センター
氏名 ① 坂井 直樹
② 上野 剛
③ 河村 高志
AMED
事業
課題名 生命科学と創薬研究に向けた相関構造解析プラットフォームによる支援と高度化
代表機関 理化学研究所
代表者 山本 雅貴

支援技術のキーワード

化合物スクリーニング、X線結晶構造解析、マイクロ流路デバイス、結晶化プレートin situ回折測定、自動構造解析

支援技術の概要

SPring-8化合物スクリーニングパイプラインはSPring-8の生体高分子解析ビームラインにおいて開発された技術を適用し、創薬標的タンパク質と化合物複合体の結晶構造を迅速かつ高精度に解析するための基盤である。このパイプラインを用いることで標的タンパク質の結晶を用い化合物ライブラリ中から結合する化合物を探索することを可能にする。結晶化条件が確立している標的タンパク質の結晶化はSPring-8の結晶化ファシリティにおいて結晶化試薬や試料の提供を受けてSPring-8のスタッフが実施する。化合物導入の際のソーキング条件(化合物濃度、時間、温度)は各条件の結晶の回折データを測定した上で判定し、結晶に応じて適切な設定が行われる。化合物導入はアコースティック分注装置ECHOを利用して結晶化ドロップへ直接化合物を添加する。共結晶化による化合物複合体の結晶作成および回折データ収集にも対応する。ビームラインを用いた回折データ測定はこれまでに開発された凍結結晶の自動測定(ZOOシステム)、マイクロ流路デバイス、結晶化プレートin situ回折測定を利用して実施する。結晶を用いた化合物スクリーニングにおいて多数の結晶構造解析を行うためにSPring-8で開発された自動構造解析システムNABEを利用する。

マイクロ流路デバイス

SPring-8では結晶を含む結晶化溶液をマイクロ流路にそのまま注入して、結晶を流路内に設けたピット(穴)に固定して溶媒を任意に置換することで、簡便に化合物ソーキングを可能にするデバイスの開発を行っている。このマイクロ流路デバイスはそのまま回折実験に使用可能であり、人手のかかる試料凍結の省力化により、作業効率の向上が期待できる。これまでに試験用一次元デバイスによる標準試料結晶の捕捉とSPring-8 BL26B2での回折データ収集および構造解析、トリプシン結晶によるリガンドスクリーニング試験を行った[1]。大規模な化合物スクリーニングでの実用化を見据えた、流路設計の改良やデバイスの集積化、試料充填の自動化開発を行うとともに、ビームラインの装置開発や制御システムの高度化を進めている。

結晶化プレートin situ回折測定システム

SPring-8では結晶化プレート内の結晶のX線回折測定を行うin situ X線回折測定環境を開発し、BL26B1で運用を行っている。結晶化プレート内の任意の結晶から室温下でのin situ回折測定が可能である。結晶化プレートマウント・交換のための多軸ロボットおよび最大54枚のプレートを保管・供給するプレートストッカーから構成される自動プレート試料搬送系も備えており、ハッチ外からの操作によって測定を行う結晶化プレートの自動交換が可能である。in situ回折測定でも結晶凍結工程を省略できるため、結晶を用いた化合物スクリーニングの高効率化が期待される。アコースティック分注装置ECHOを使用し、結晶化ドロップに直接化合物溶液を添加して化合物ソーキングを行いin situ回折測定を行い標的タンパク質と化合物複合体の結晶構造を解析することが可能であることを示した[2]。

支援技術の利用例

アコースティック分注装置を利用した化合物ソーキングではこれまでに企業との共同研究で標的タンパク質と化合物複合体の結晶構造を多数解析している。これらは凍結した結晶と自動測定を組み合わせた成果である。マイクロ流路を用いた化合物ソーキングの実験ではトリプシンにフラグメント化合物が結合した結晶構造を解析している。またアコースティック分注装置と結晶化プレートin situ回折測定システムを組み合わせることによりトリプシン結晶へ複数の化合物を導入し結晶構造解析が可能であることが示されている。
SPring-8化合物スクリーニング支援を利用することにより、創薬標的タンパク質に結合する化合物の探索とあわせて標的タンパク質と化合物の複合体の立体構造情報を得ることが可能である。この情報はBINDSのユニット間連携によって化合物のさらなる合成展開や、インシリコでの化合物デザインに利用することが可能である。

支援担当者の研究概要

坂井 直樹

https://researchmap.jp/read0116868
化合物スクリーニングパイプラインの運用と高度化、結晶化プレートin situ回折測定システムの運用と高度化、標的タンパク質と化合物複合体の結晶構造解析

上野 剛

https://researchmap.jp/sp8gu
マイクロ流路デバイスの開発、結晶化プレートin situ回折測定システムの高度化、標的タンパク質と化合物複合体の結晶構造解析

河村 高志

https://researchmap.jp/bwsr
化合物スクリーニングパイプラインの運用と高度化、標的タンパク質と化合物複合体の結晶構造解析

参考文献

[1] Maeki M, et al. Chem. Sci 11, 9072-9087 (2020)
[2] Okumura H, et al. Acta Cryst. F78, 241-251 (2022)

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