A1-8 KEKタンパク質X線結晶構造高難度解析支援

ユニット名

構造解析ユニット

支援担当者

所属 ① 高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 構造生物学研究センター
② 高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 構造生物学研究センター
③ 高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 構造生物学研究センター
氏名 ① 松垣 直宏
② 山田 悠介
③ 引田 理英
AMED
事業
課題名 生命科学と創薬研究に向けた相関構造解析プラットフォームによる支援と高度化
代表機関 理化学研究所
代表者 山本 雅貴

支援技術のキーワード

高難度結晶構造解析、in-situ測定、低エネルギーX線、結晶加工

支援技術の概要

本支援では高エネルギー加速器研究機構(KEK)・Photon Factory(PF)にある5本の放射光ビームラインにおいて、高難度のタンパク質結晶構造解析のための技術支援を行う。特に高精度のデータが求められる実験や特殊環境での測定などに対し、PFで開発してきた技術を用いて、試料結晶の準備、回折データ収集・処理、構造決定等にわたって総合的にサポートする。BL-17Aでは専用ゴニオメータを用いて結晶化プレート上の結晶に直接X線を照射して回折データを収集するin-situ測定により、結晶化スクリーニングで得られた結晶の迅速な評価および摘出が困難な結晶の回折データセット収集と構造解析を行うことができる。BL-1Aではヘリウム環境下で低エネルギーX線を利用した回折強度データ収集を高精度で行うことができ、Native SAD位相決定や結晶中の原子同定に利用できる。波長193nmの深紫外レーザーで結晶を任意の形状に加工することにより、高精度の回折データが必要な低エネルギーX線実験やAR-NW12Aでの顕微分光実験などでの測定精度の向上が可能である。

必要なビームタイムは、担当者による支援実験あるいはユーザー自身がSPring-8とPFのビームタイムを施設横断的に利用できるビームタイム支援を使用する(支援メニューA1-12)。測定試料を凍結し送付すれば、インターネットを通じてビームライン装置を操作し測定を行うリモート実験や、全自動測定システムにより無人でデータ収集を行うことも可能である。

PFにおける測定装置: (1)in-situ測定用回折計(BL-17A)(2)低エネルギーX線用ヘリウムチャンバーと回折計(BL-1A) (3)結晶レーザー加工装置 

支援技術の利用例

1)結晶化プレート中の結晶に直接X線を照射するin-situ測定を支援する。結晶化スクリーニングで得られた結晶の迅速な評価が可能である。また、多数の結晶から部分データを収集しマージすることで、プレートから摘出が困難な結晶の構造解析や、室温環境での結晶構造解析を行うことができる。PFで開発した特殊プレートを用いて、膜タンパク質からのin-situ測定にも対応可能である。 (担当: 山田悠介)

2)低エネルギーX線(4keV、波長3Å付近)を利用した高精度回折データ収集を支援する。重原子誘導結晶無しでの実験的位相決定(native SAD法)は、結晶加工などの技術を用いることで、分解能3Å程度の結晶のほぼすべてに適用可能である(図左下)。マルチドメインタンパク質や複合体など構造の一部の情報がある場合は、分子置換法と組み合わせたMR-native SAD法が、迅速な構造決に有効である。異常分散シグナルの密度マップから、結晶中のイオウ、リンなどの位置情報を得ることができ、とくに低分解能マップでのモデリングを助ける。また、CaやKの吸収端付近での回折データから実験的に原子種とその位置を決定することが可能である(図右下)。(担当:松垣直宏)

3)タンパク質結晶の顕微分光測定、および深紫外レーザーを用いたタンパク質結晶加工実験を支援する。顕微分光測定では (図左下)、結晶の紫外可視吸収分光、およびラマン分光測定が可能であり、装置を使用することで、タンパク質の酸化還元状態や反応中間体の占有率などの同定が可能である。X線結晶構造解析に相補的な情報を与えてくれる分光法の利用は、タンパク質の機能メカニズム解明研究において、非常に有効である。深紫外レーザーを用いたタンパク質結晶加工実験については (図右下)、本装置を利用して、結晶周辺の溶媒やループのトリミングや結晶の不均一部分もしくはサイズの調整を行うことで、主に低エネルギーX線実験や顕微分光測定において、高精度の回折データ収集や分光スペクトルの測定精度の向上が可能である。 (担当:引田理英)

支援担当者の研究概要

高エネルギー加速器研究機構では、放射光実験施設(PF)と構造生物学研究センター(SBRC)が緊密に連携し、施設の高度化を進めながら構造生物研究支援を担当する。支援担当者はビームラインサイエンティストであり、ビームラインにおける実験や構造解析において高い専門性を有している。大学共同利用や企業利用などの豊富な経験を持ち、ビームタイム配分や試料の取り扱い、装置の運用などの支援体制が整っている。SBRCではクライオ電顕施設も運用しており、溶液散乱(SAXS)も含めシームレスに相関構造解析に対応することが可能である。また、大規模結晶化システムの開発・運営も行っている。

  • Tao et al. Discovery of non-squalene triterpens. Nature 606, 414-419 (2022)
  • Kawano et al., A crystal-processing machine using a deep-ultraviolet laser: application to long-wavelength native SAD experiments. Acta Cryst. F78, 88-95. (2022)
  • 山田悠介, Photon Factoryのタンパク質X線結晶構造解析ビームラインにおける全自動測定とリモート実験, 日本結晶学会誌 63 巻 3 号 p. 208-211
  • 松垣直宏 他, 長波長X線を利用したタンパク質結晶構造解析,日本結晶学会誌 2020 62, 56-61
  • 高エネルギー加速器研究機構・物質構造科学研究所・構造生物学研究センターHP:
    https://www2.kek.jp/imss/sbrc/

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