A2-1 タンパク質クライオ電子顕微鏡構造解析支援

ユニット名

支援担当者

支援技術のキーワード

クライオ電子顕微鏡、単粒子解析、構造多型解析、細胞構造解析、試料調製、

支援技術の概要

　クライオ電子顕微鏡を用いたタンパク質の構造解析や細胞内小器官の構造解析の支援を行っている。主に電子顕微鏡のハードウエアの取り扱いを中心にトレーニングを行った技術員が観察をサポートし、スタッフを含む研究員が単粒子解析を希望する利用者から試料を受け入れ、試料作成とデータ収集、解析などを支援している。支援の際には、BFAYOS (Bring, Freeze, and Analyze Your Own Sample)のコンセプトに従い、基本的には利用者自身、あるいは利用者の立会いのもとに技術員が支援を行っている。得られた情報は直接利用者にフィードバックしており、ネガティブ染色によるスクリーニング、凍結グリッドの作製条件の探索、特に膜タンパク質や核内タンパク質に関するノウハウの提供、大規模なデータ収集などが行われている。データ解析環境としては東京大学のスーパーコンピュータ上にクライオ電顕の解析のためのソフトウェアが整備され、利用者が外部から解析できるようにしている。
　また、3次元構造解析のためクライオ電子線トモグラフィーの支援を行っている。トモグラフィーについても、新規導入された電子顕微鏡(Titan Krios)がデータ収集の効率化・高解像度化に大きく貢献している。
　この分野への理解を深めてもらうため、ワークショップを毎年開催しており、トモグラフィーなどをテーマに基本的な原理や試料作製方法、解析事例などを紹介し、研究者のすそ野を広げている。
クライオ電子顕微鏡は共用設備として学内外に開放されており、利用についてはWeb（http://structure.m.u-tokyo.ac.jp/emfacility）を参照していただきたい。

支援技術の利用例

　ネガティブ染色法による構造解析やクライオ電子顕微鏡を用いた膜タンパク質、筋肉フィラメント、繊毛、クロマチンなどの構造解析が行われており、2021年度は39課題の利用実績があり全利用日数は460日であった。これまでに論文発表が行われた例を紹介する。

1. 陰イオンチャンネルLRRC8Aのクライオ電子顕微鏡による構造解析
   すべての生物は細胞外の浸透圧の変化に応じて細胞の容積を制御することにより，その容積をつねに一定に保つことで、正常な機能を維持している。
   LRRC8ファミリーは細胞の膨張を感知して活性化する陰イオンチャネルである。塩化物イオンなど浸透圧を調節する物質を細胞の外へと排出することにより細胞の容積を維持する。
   この研究において，クライオ電子顕微鏡による解析によりヒトに由来するLRRC8Aの構造が決定された。構造解析の過程において，LRR領域が“閉じた構造”と“緩んだ構造”の2つが確認され，これらの構造の比較から，LRR領域が剛体として動くことによりイオンの透過孔を開閉する可能性が示唆された。



2. AIM/IgM複合体構造解析
   これまで正五角形をしていると信じられていた IgM 五量体は、実は一ヵ所大きなギャップを持つ非対称で歪な五角形をしていることが電子顕微鏡解析により明らかになった。急性腎障害を始めとするさまざまな疾患を制御する血中タンパク質 AIM は、そのギャップに嵌まり込むような形で、IgM 五量体と安定的に結合し、不活性化していることが明らかになった。
   これまで 50 年以上教科書に記載されていた IgM 五量体の構造を書き変える成果が得られた。また、IgM から AIM を解離させ活性化することにより、さまざまな疾患に対する新規かつ効率的な治療法の開発に貢献することが期待される。

支援担当者の研究概要

東大・院・医学系研究科・吉川研
　クライオ電子線トモグラフィーと遺伝学を用いた標識法を開発してきた。この方法を一般化し、より多くの細胞内小器官で分子の働きを3次元で可視化する。トモグラフィーの応用高度化を行う。

東大・院・医学系研究科・ダネフ研
　新世代のクライオ電子顕微鏡技術の開発と応用を行う。

東大・院・理学系研究科・伊藤弓弦准教授
　タンパク質、核酸、リボソームなどの試料調製や、グリッド作製のノウハウを、特に膜タンパク質解析において提供し、支援に活用する。また、クライオ電子顕微鏡操作およびデータ測定に関して、RELION、CryoSPARC等ソフトウェアを用いた単粒子解析、Coot、PHENIX等ソフトウェアを用いた構造モデル構築と精密化を用いた支援する。

東大・院・定量生命科学研究所・滝沢由政准教授
　タンパク質、核酸、リボソームなどの試料調製や、グリッド作製のノウハウを、特に核内タンパク質解析において提供し、支援に活用する。

クライオ電顕のオープンコースウェア・ワークショップ
　クライオ電顕技術になじみのない研究者・学生に対し、インターネットを使った講義シリーズを開講する。また、実地での経験を積むためのワークショップも開催する。